弘前市立病院
1971年竣工 RC造6階 病院
市の中心部に建つ、市民の総合病院とともに健康センターとしての機能を持たせた医療施設として計画された。1969年に全焼した旧弘前市立津軽病院の早急の復興を求められ依頼された。
外壁は、木版の型枠の跡のある打ち放しで優しい雰囲気がある。また、正面玄関の外壁はコンクリートをはつった仕上げになっており、非常に特朝的な外壁である。屋根は雪に負けないフラットルーフに挑戦しており、現在は立ち入り禁止だがリハビリのための屋上庭園もつくられた。
患者の視点からも、東西の病室棟同士の中心部にはデイルームと呼ばれる空間を計画された。患者が日光浴ができるなど憩いの空間として使われ、実際にテレビを観たりなど患者が集まる場所だったと聞く。
竣工時の1階のエントランスホールは、吹き抜けが設けられ、北・西・南面の3面に開口部がある明るく開放的な空間だった。
1978 , 1983 , 2001 , 2004年の4度増築が行われ、竣工時の意匠形態とは変化している。
参考:アーハウス No.1 2005.1 建築家 前川國男の仕事 2006.4 弘前市立病院 竣工時パンフレット 前川建築設計事務所 ヒアリング
見学をして仮説をたててみる
外部を見学
エントランスを見学
・外壁のコンクリートの色が違いは増築した部分だろう。
・どうして窓が外壁から奥まったところにあるのか?窓への着雪対策、少し日射遮蔽もできそう。
・エントランスなのに暗い。増築の影響で暗くなったのでは?
・待合空間に日光が入るのは、精神的に良いので、日光を取り入れる計画をしていたはず。
病室を見学
・窓からの風景が良い
・窓が外壁から奥まっていることで、秋でも少し日射が遮られていたので、夏はもっと日射遮蔽できそう。
・冬は日射で暖まりそうだが、外壁RC打ち放しだと夜間は寒そう。
デイルームを見学
・窓の多く明るい空間
・病室棟の中心にある明るい空間だったので、意図した明るさなのではないか。
・上階のバルコニーが庇になって日射遮蔽もしているはず
弘前市立病院の環境的なアプローチについて
前川國男の関連の言葉(弘前市立病院竣工時)
・病室から解放され、食事、談話面会、日光浴を楽しむためデイルームを設定した。
・明るく開放的な吹き抜けホールの待合スペースをつくり…
・中央高校講堂や市庁舎の大庇を踏まえた
・雪による影響を意識して、窓を壁面より深く配した
前川國男に関わる人の言葉
・時間を取り込む(中田準一)
参考:建築家 前川國男の仕事 2006.4 弘前市立病院 竣工時パンフレット 市立病院竣工に際して 1971.3 前川建築設計事務所 ヒアリング
前川さん、すべて自邸でやってたんですね 前川國男のアイデンティティー
注目した意匠的な要素
・病室の外壁から奥まった窓
・デイルームの庇
・竣工時のエントランス
・日光浴ができるデイルーム
前川國男は、弘前市立病院の竣工時に雪や光に関する環境的なアプローチに関しての言葉を残している。デイルームやエントランスは光環境へのアプローチ、外壁から奥まった窓や庇は雪に対してのアプローチがあったようにみえる。
また、弘前市立病院以前~同年代の他の前川建築の文献から、環境的なアプローチに繋がりそうな言葉にも注目した。
エントランスなどは、前川建築の全体を通しての環境的なアプローチの系譜があるのかもしれない。
エントランスについて
現状のエントランス
「明るく開放的な吹き抜けホールの待合スペースをつくり…」
この言葉から前川國男は、エントランスの光環境へのアプローチする設計計画をしたと考えられる。
竣工時の図面をみると、エントランスに直接面した開口部は、南側1F・北側1,2F・西側1,2Fだった。多くから日光が入り、明るく開放的な様子が想像できる。
2004年の増築後は、西側2Fの開口部は無くなり、南側1Fと西側1Fの開口部は他の室の影響で日光が入りにくくなった。
竣工時は「明るく開放的」だったエントランスも増築によって変化したと考えられる。
また、元所員の中田準一氏の書籍から、前川國男自邸では影の動きによって、時間を取り込むという記載がある。
竣工時のエントランスは、南・西・北に開口部に開口部があったことで時間経過によってあらゆる方向から日光を取り入れて「明るく開放的」なエントランスを計画したと考えられる。
エントランスと太陽の動き(左:竣工時 右:増築後)
これら光環境へのアプローチは竣工時のエントランスへの言葉である。
今は実測調査ができないため、シミュレーションを含めた調査・分析、効果的な照度の値だったのか、明るく開放的な環境だったのかをから検証する。
エントランスの光環境
後程、エントランスの光環境の分析を公開する予定。
デイルームについて
9月の9:00のデイルーム
デイルームに影響する太陽の動き
「病室から解放され、食事、談話面会、日光浴を楽しむためデイルームを設定した。」
「中央高校講堂や市庁舎の大庇を踏まえた」
この言葉から前川國男は、デイルームは、雪・光環境へのアプローチする設計計画したと考えられる。
中央高校講堂や市庁舎は、木村産業研究所の雪害以降継続されている対策と考えられるため、竣工時にあった正面玄関のキャノピーやデイルームの庇も雪への対策の意味合いもあったと考えられる。
写真のように東・南側に開口部があることで、朝方から夕方にかけて明るく「日光浴」ができる空間に計画されていると考えられる。
また、庇は雪だけでなく日射遮蔽による温熱環境への効果もあると思われる。温熱環境に関する言葉はなかったが、プリーズソレイユとしての意味合いもあったのではないか。
日射遮蔽効果に関しては、環境測定から分析が必要である。
光環境と温熱環境を実測結果とシミュレーションを合わせて分析して、アプローチの効果を検証する
デイルームの温熱環境と光環境・雪に関して
後程、温熱環境・光環境・雪の分析を公開予定
病室について
「雪による影響を意識して、窓を壁面より深く配した」
この言葉から、病室の外壁から奥まった窓に注目した。
弘前市立病院の病室は、窓が外壁面より深い位置にある。窓下には大きな窓皿板が設置されている、高密度のコンクリートで成形されていることなどから、弘前市の雪へのアプローチはあったと考えられる。
また、外壁面より深い窓は雪だけでなく、日射遮蔽による温熱環境への効果もあると思われる。温熱環境に関する言葉はなかったが、プリーズソレイユとしての意味合いもあったのではないか。
日射遮蔽効果に関しては、環境測定から分析が必要である。
病室の温熱環境と雪に関して
後程、病室の温熱環境・雪の分析を公開予定
食事室について
食事室の環境に関しては、現在調査中です
まとめ
近日公開
外部公開が済み次第、まとめと動画を公開します。
参考:建築家 前川國男の仕事 2006.4 弘前市立病院 竣工時パンフレット 市立病院竣工に際して 1971.3 前川建築設計事務所 ヒアリング
前川さん、すべて自邸でやってたんですね 前川國男のアイデンティティー