introduction
イベント前に読んでほしい
1、断熱と蓄熱
前川建築の環境を考えるうえで、「断熱」と「蓄熱」という言葉をよく使うことになると思います。イメージしやすいように解説したいと思います。
・断熱
冬の場合で説明すると、断熱は「外に熱を逃がさない」ことで、室内の温度が下がりにくくする方法です。お金でイメージすると「節約」です。
断熱性能が低いと左図のように外に熱が多く逃げて、室内は暖まりにくいです。
断熱性能が高いと右図のように外に熱が逃げにくく。室内が暖まりやすいです。
熱損失という支出を減らして、室内に熱を残すイメージです。
・蓄熱
冬の場合で説明すると、蓄熱は「壁や床に熱をためる」ことで、室内の温度の温度を一定に保つ方法です。お金でイメージすると「貯金」です。
日中の室内の温度が高い時は、その熱を壁や床などにためておきます。夜間に室内の温度が下がったときには、日中にためた熱を放出して温度を保つ働きをします。
壁や床を熱の貯金箱として、室温が高い時はためて、低い時はそこから出して室温を一定にするイメージです。
前川建築のようなコンクリートやレンガは熱を多くためられる素材です。
高断熱化して省エネを計画すること現代の主流ですが、蓄熱をうまく活用して省エネを計画する方法もあります。
2、簡単なグラフのみかた
グラフを使って説明する部分もあるかと思いますので、温度のグラフはどこをみればいいのか、軽く解説したいと思います。
・夏の温度のグラフのみかた
夏は主に「最高温度」をみてください。
室内の最高温度がどのくらい低く抑えられているのか。そこが夏の温度をみるうえでのポイントです。多くの場合はお昼くらいに最高温度になるかと思います。
・冬の温度のグラフのみかた
冬は主に「最低温度」をみてください。
室内の温度がどこまで下がってしまうのか、何度以上を保つことができているのかが冬の温度をみるうえでのポイントです。
多くの場合は、朝方が最低温度になることが多いのです。
日中に暖房をつけて夕方に切る、そのまま朝まで放置していると何度まで室温が下がるのかをみてください。
3、外皮性能について
話題提供の中で「外皮」という言葉を使うことがあると思います。
外皮とは、外壁・屋根・床・窓などの外部に触れる建物の面のことです。
少しずつ専門的は話になってきますが、施設などの建物には冷房・暖房で使用するエネルギーは、年間このくらいにしてください、という基準があります。その基準の一つが外皮性能です。
住宅以外の施設の場合は、年間で冷房・暖房で使用するエネルギーが1㎡当たり○未満(MJ/㎡)という、基準を満たすことができる外皮の性能が求められます。
4、弘前市の前川建築について
弘前市には、現在8つの前川建築が現存しています。
処女作の木村産業研究所から、遺作の弘前市斎場まで50年以上にわたって建てられ続けてきました。
前川建築のデザインは3つの世代に分けられるという方もいます。
その3つのすべての世代の建物をみられるのが弘前市です。
今回は主に弘前市立病院と弘前市斎場の環境測定についての話をします。
5、弘前市立病院について
弘前市立病院は1971年に竣工した鉄筋コンクリート造6階建ての建物です。
2022年3月の閉院まで4度の増改築を経て使われてきた病院です。
コンクリート打ち放しの外観が特徴的で、病室棟には患者が日光浴できる空間としてデイルームが計画されています。
建築環境の視点でみると、デイルーム外部の庇や病室の開口部が外壁から奥まっていることは、環境的に良い効果があるのではないかと考えています。
また、1階の待合のエントランスホールなどの待合空間は、不安を抱きながら長い待ち時間を過ごす場所として努力を払って計画したとされています。
待合空間にも環境的な良い点があるのではないかと期待しています。
6、弘前市斎場について
弘前市立病院は1983年に竣工した鉄筋コンクリート造の建物です。
打ち込みタイルの外観が特徴的で、大きな勾配屋根の車寄せなど、弘前の雪に対しての配慮がみてとれます。
また、遺族の待合のホールの窓からは、炉前の灯明がみえるように設計されている。
建築環境の視点でみると、打ち込みタイルを採用し外壁が厚くなることで環境的に良い効果があるのではないかと考えています。
庇や外壁から奥まった窓などは、継続して採用されており、その点は弘前市立病院と同様の効果が期待できます。
また、晩年の前川建築では土間床や壁・天井などに断熱材が入っており、環境的な面でも技術的に更新してきたことが読み取れます。
待合室や待合ホール、一般待合ホールなど環境的に有利な南面の開口部が多いことも技術的に更新してきたことが読み取れます。